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のわき

野分

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《野分(のわき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 93,508 字 · 189 頁

青空文庫

「分りましたか」と道也先生が云う。顔を見たのはやっぱり何の役にも立たなかった。

「どうも」と折れざるを得ない。

「だってそうじゃありませんか。――文学はほかの学問とは違うのです」と道也先生は凜然と云い放った。

「はあ」と高柳君は覚えず応答をした。

「ほかの学問はですね。その学問や、その学問の研究を阻害するものが敵である。たとえば貧とか、多忙とか、圧迫とか、不幸とか、悲酸な事情とか、不和とか、喧嘩とかですね。これがあると学問が出来ない。だからなるべくこれを避けて時と心の余裕を得ようとする。文学者も今まではやはりそう云う了簡でいたのです。そう云う了簡どころではない。あらゆる学問のうちで、文学者が一番呑気な閑日月がなくてはならんように思われていた。おかしいのは当人自身までがその気でいた。しかしそれは間違です。文学は人生そのものである。苦痛にあれ、困窮にあれ、窮愁にあれ、凡そ人生の行路にあたるものはすなわち文学で、それらを甞め得たものが文学者である。文学者と云うのは原稿紙を前に置いて、熟語字典を参考して、首をひねっているような閑人じゃありません。円熟して深厚な趣味を体して、人間の万事を臆面なく取り捌いたり、感得したりする普通以上の吾々を指すのであります。