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きんろう
金狼
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《金狼(きんろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 89,438 字 · 179 頁
葵は寝床のなかで、それを読んでいた。
久我が予知したように、その後、葵は召喚されることもなかったので、毎朝、ゆったりした気持で、新聞に読みふけることが出来るようになった。
葵は、この事件の記事が眼にふれるたびに、はじめて久我と逢った朝のことを、いつも、こころ楽しく思いだす。いろいろな記憶の細片……。とりわけて、特高刑事だと明されたときの、強烈な印象を思いかえす。
あのとき、葵が蒼ざめて首をたれたのは、これほどまでに真率な久我にたいし、あくまでも偽りとおさねばならぬ、いまわしい自分の経歴を悲しんだからだった。
葵が久我に、一ヵ月ほどまえに、はじめて東京へ来たといったのは嘘である。彼女は東京で生れ、そして、そこで育った。
葵はある大名華族の長女に生れた。西国の和泉高虎の一門で、葵の家はその分家だった。代々、木賀に豊饒な封地をもち、瓦壊前は鳳凰の間伺候の家柄だった。
旧幕時代の分家というものは、親戚であっても、だいたい、家臣同様の格に置かれたものだが、和泉藩に於ける分家とは、あたかも、主人にたいする奴僕の関係にひとしかった。葵の家の家憲には、つぎのような一章があったのである。