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こんじきのし
金色の死
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《金色の死(こんじきのし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 頁
五
と云う事を尚ぶ彼の芸術家気質から来るのだろうと判断して居ました。「富は必ずしも美を伴わない。しかし美は常に富の力を借りなければならない。」―――斯云う事を信じて居た私は岡村君の富に対して羨みこそすれ、何等の反感をも抱いては居ませんでした。彼が自分の富を誇るのは、即ち自分の美を誇る所以だと考えて居ました。けれども彼が世間的の爵位などを欲すると云うに至っては、全く予想外に感じたのです。此の言葉を聞いた時、私は岡村君と云う人物を見損なって居たような気がしました。「己は今日迄岡村を買い被って居た。己は欺かれて居たのだ。」と、私は心ひそかに呟きました。そうしてそれとなく彼を反省させるつもりで、
「金の有るのは勿論仕合せだが、どうかすると却って不仕合せな結果になるよ。富と云うものは知らず識らず人間の魂を堕落させて了うからね。」
と云いました。
「そんな心配はないよ。金持ちが堕落するのは、その財産を更に殖やそうとして実業に従事する時だけさ。金の有る奴は、働かないで遊んでさえ居れば常に仕合せなんだ。」
こう答えて、彼は格別気にも留めない様子でした。
五
中学を卒業した年の夏、私は首尾よく東京の第一高等学校へ入学する事が出来ました。