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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 頁
その――。」
竜の手、とは言わなかったが、老人は、すぐそれと感づいたに違いない。嫌な顔をして、黙った。
藤吉は、構わず、上り込んで、部屋の隅の壁に凭れて、坐った。
仏壇に、新しい白木の位牌が飾ってある。燈明の灯が、隙間風に、横に長かった。
惣平次とおこうは、炉を挾んで対坐したまま、黙して、石のように動かない。勝手に上り込んで、影のように壁ぎわに腕を組んでいる、見慣れない、不思議な客――いや、その藤吉親分を、ふしぎな客と感ずるよりも、藤吉の存在それ自身が、二人の意識に入っていないらしいのだ。
「あの部屋で、三人じっと無言でいた時ほど、凄いと思ったことはねえよ。」
後で藤吉が、述懐した。
本所の南、五本松の浄巌寺に、庄太郎の遺骸を埋めて、今は陰影と静寂の深い家に、老夫婦は、こうして、ぼんやりすわって来たのだった。
あんまり急な出来事なので、庄太郎の死を、現実に受け取ることは、なかなかできなかった。いまにも、あの元気な顔で、最後の朝、出がけに言ったように、安房屋の煮豆でも提げて、ぶらぶら帰宅って来そうな気がしてならない。
とにかく、これでお終いという法はない。