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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 頁

青空文庫

このたびは、どちらへ? 唐天竺でございますか。それとも、南蛮とやら――。」

「いや、」久住は、首を傾げて、「南蛮まで伸すことはござらぬが、しかし、それもわからぬ。どこへ参るのやら、船出した後までも、われわれ下役には、御沙汰のないのが常でな、とんと見当がつき申さぬよ。」

木の瘤のような肩と、油気のない髪をゆすぶって、いつまでも哄笑がひびいた。

潮焼けしたとでもいうのか、恐ろしい赤毛である。身長が高くて、板のような胸だ。そして、茶色の顔に、眼がまた、不思議に赤い。交際っていて、見慣れているから、惣平次一家の者は平気だが、誰でもはじめて会う人をちょっとぎょっとさせる、うす気味のわるい人間だった。が、気は、至極いい。穏和しいのである。

風が、いきおいを増した。

おこうが、あり合わせの物に、燗をつけて出すと、久住は、惣平次と酒盃をかわしながら、その、風のうなりに耳を傾けて、暗夜の海上――帆音を思い出すような眼つきをした。

例によって座談が弾んで、久住の口から、遠い国々の港みなとの風景、荒くれた男たち、略奪、疫病、変った人々の生活ぶり、などが物語られる。

尽きない。