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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,907 字 · 32 頁

青空文庫

で、江戸へ着くとすぐ、定宿の大鍋に草鞋を脱いだのだが、二、三日は寝て暮らして旅の疲れを休めるつもりで、その晩はすこし早目に枕に就いたのだった。

それが、大分眠ったと思うころ、ぽっかり! 眼が覚めたので、初太郎は、もう朝になったのではないかという気がした。そう思うと、雨戸を鳴らす風も暁風のように考えられるし、気のせいか戸の隙間に仄白い薄明りさえ感じられた。それにしては、世間が死のように静かなのが――初太郎はむっくり起き上った。宿のどてらを羽織って、小首を傾げながら縁側へ出た。

縁側へ出た拍子に、がたんと大きく、雨戸が鳴った。端寄りの一枚である。どうしても風ではない。その雨戸の真ん中辺へ何か固い物が外部からぶつかった音に相違ないのだ。初太郎は手早く桟を下ろして、雨戸を引いた。とたんに、湿気を含んだ濃い闇黒が、どっと音して流れ込む。初太郎はぶるると身震いをしながら、庭の奥を見定めようとするように、軒下の闇黒に首を突き出した。が、遠くを見るまでもなかった。その、戸外へ伸ばした初太郎の鼻っ先に、だらりと二階から下っている人間――首吊――女らしい。そうだ、女の首吊だ。