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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,907 字 · 32 頁

青空文庫

これは仙台様へ人足を入れている堺屋小三郎の小頭で宇之吉という、しじゅう国許と江戸表とを往復している鳶の者だった。初太郎が呆気にとられている宇之吉を、無言で自分の部屋へ引っ張って来て、雨戸の外に吊り上って行く首吊を見せると、宇之吉も、顔いろを変えた。

「お! これはお女将さんじゃあねえか。どうしたというんですい。」

「どうもこうも――、」初太郎は、口がきけなかった。「ふっと眼が覚めたら、あれが――あんなものがぶら下ってるんで。」

「はてな、なんにしても大変事だが、自分で縊れ死んだものなら首吊が競り上って行くという法はねえ。」宇之吉は考えて、「この二階がお女将さんの寝間でごわしたな。上ってみよう。」

初太郎のいるすぐ外が、中廊下の往き止まりになっていてそこに、二階へ上る唯一つの梯子段がある。上るにも降りるにも、此段を通らなければならないのだ。二人は息せききって二段ずつ一跨ぎに駈け上った。二階も同じ造りである。切込みの角行燈が、ぽつんと人影のない長廊下を照らして、どの部屋も眠っているらしく、しいんとしている。取っつきのお美野の寝間には、有明行燈の灯がぼうっと障子に翳んで、何の異状もありそうに思えない。