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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,907 字 · 32 頁

青空文庫

が、時を移さず踏み込んだ二人は、室内の様子を一眼見るより、二度ぎょっとして立ちすくんでしまった。今のいま外にぶら下っていたお美野が部屋の真ん中の寝乱れた床の傍に、仰向けに倒れている。闇黒に揺れていた荒い滝縞の丹前を踏みはだけて、白い膝がしらを覗かせ、素足の足に苦悶の力が籠もって、指がのけ反っているのだ。首に巻いた細引が、蛇のように畳の上を這って、一端は、違い手の小柱に固く結んであった。室には、ほかに誰も人はいないのである。

初太郎と宇之吉は、首吊をそのままに、申し合わせたように縁の欄干へ駈け寄って下を覗いた。階下と同じ場所の雨戸が一枚繰られてあるほか、つい今し方までそこに垂れ下っていたお美野の死体は、二人が駈け上って来る間に、何者かの手によってこうした室内の中央に引き上げられて、下に見えるものは、初太郎の部屋から、開いている雨戸一枚の幅に黄色く流れ出て庭上に倒れている行燈の焔影だけである。何ごともなかったように、夜は深沈と朝への歩みをつづけるばかり――。

検めるまでもなく、お美野は扼死している。あるいは絞殺されている。どっちにしろ、死体がひとりでに宙に浮いて、綱を引いて上って来ることは考えられない。