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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《釘抜藤吉捕物覚書(くぎぬきとうきちとりものおぼえがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 頁

青空文庫

十軒店の五月人形が、都大路を行く人に、しばし足を留めさせる、四月も十指を余すに近いある日のことだった。

暮れ六つから泣き出した空は、夢中で烏鷺を戦わしている両人には容赦なく、伝二郎が気がついたころには、それこそ稀有の大雨となって、盆を覆えしたような白い雨脚がさながら槍の穂先きと光って折れよとばかり庭の木立を叩いていた。二人は顔を見合せた。夜も大分更けているらしい。それに、何を言うにもこの雨である。故障さえなければ、夜の物の不備不足は承知の上で今夜はこの寮に泊るがよいという玄内の言葉を、いや、強って帰るとも断り切れず、そのうちまた一局と差し向うままに受けたともなく、拒んだともなく、至極自然に伝二郎はその晩玄内宅へ一泊することになったのであった。ええ、家の方はどうともなれ、という頭が先に立って、黒白の石に飽きれば風流を語り、茶に倦めば雨に煙る夜景を賞して彼は晩くまで玄内の相手をしていた。玄内は奥の六畳、伝二郎が四畳半の茶の間と、それぞれ夜着に包まって寝についたのがかれこれ、あれで子の刻を廻っていたか――。

何時ほど眠ったか知らない。軒を伝わる雨垂れの音に、伝二郎が寝返りを打ったときには、雨後の雲間を洩れる月影に畳の目が青く読まれたことを彼は覚えている。