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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 頁

青空文庫

私は今となっては一万両、二万両は愚か、百の銭も欲しくはない」

「――」

「手下の者も、それぞれ足を洗うように手配したが、ただ気になるのは定吉がたった一人。あの子は蚊帳の中に放した蜂のようで、何をやり出すかわからない」

「――」

「どうせ背負いきれないほどの罪を作った私、親分の手で縛って突き出して下すっても、少しも怨みとは思いません。その代りたった三日でも、私を側へ置いて、存分に可愛がって下すったら、私は死んでも――」

それは実に恐ろしい執念でした。お栄は平次の足の甲にその濡れた頬を摺り寄せて、赤ん坊のようにだだをこねるのでした。

「宜い加減にしないか、ばかばかしい」

平次はしかし、この女を抱き上げて、たった一言でも、優しいことのいえる人柄ではなく、暫らくは困惑しきって、女の狂暴な告白を聴くほかはなかったのです。

「私は最初から、逃げる気になれば逃げられました。二万両の金も船にでも積んで持って行けば、京大阪へも持って行けたことでしょう。住みにくい江戸に踏み止まって罪の上に罪を重ねたのは、他所ながら親分を見ていたいばっかり」

「――」

「そのために私は、眉も剃り落し、嫌いな鉄漿をつけ、それでも足りなくて、前歯まで一本欠きました」