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に、さんば――じゅうに、さんば
鏡花短篇集
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《鏡花短篇集(に、さんば――じゅうに、さんば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,305 字 · 66 頁
杖の柄で掻寄せようとするが、辷る。――がさがさと遣っていると、目の下の枝折戸から――こんな処に出入口があったかと思う――葎戸の扉を明けて、円々と肥った、でっぷり漢が仰向いて出た。きびらの洗いざらし、漆紋の兀げたのを被たが、肥って大いから、手足も腹もぬっと露出て、ちゃんちゃんを被ったように見える、逞ましい肥大漢の柄に似合わず、おだやかな、柔和な声して、
「何か、おとしものでもなされたか、拾ってあげましょうかな。」
と言った。四十くらいの年配である。
私は一応挨拶をして、わけを言わなければならなかった。
「ははあ、ごんごんごま、……お薬用か、何か禁厭にでもなりますので?」
とにかく、路傍だし、埃がしている。裏の崖境には、清浄なのが沢山あるから、御休息かたがた。で、ものの言いぶりと人のいい顔色が、気を隔かせなければ、遠慮もさせなかった。
「丁ど午睡時、徒然でおります。」
導かるるまま、折戸を入ると、そんなに広いと言うではないが、谷間の一軒家と言った形で、三方が高台の森、林に包まれた、ゆっくりした荒れた庭で、むこうに座敷の、縁が涼しく、油蝉の中に閑寂に見えた。