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に、さんば――じゅうに、さんば
鏡花短篇集
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《鏡花短篇集(に、さんば――じゅうに、さんば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,305 字 · 66 頁
が、しばらく茫然として彳んだ。――電車の音はあとさきに聞えながら、方角が分らなかった。直下の炎天に目さえくらむばかりだったのである。
時に――目の下の森につつまれた谷の中から、一セイして、高らかに簫の笛が雲の峯に響いた。
……話の中に、稽古の弟子も帰ったと言った。――あの主人は、簫を吹くのであるか。……そういえば、余りと言えば見馴れない風俗だから、見た目をさえ疑うけれども、肥大漢は、はじめから、裸体になってまで、烏帽子のようなものをチョンと頭にのせていた。
「奇人だ。」
「いや、……崖下のあの谷には、魔窟があると言う。……その種々の意味で。……何しろ十年ばかり前には、暴風雨に崖くずれがあって、大分、人が死んだ処だから。」――
と或友だちは私に言った。
炎暑、極熱のための疲労には、みめよき女房の面が赤馬の顔に見えたと言う、むかし武士の話がある。……霜が枝に咲くように、汗――が幻を描いたのかも知れない。が、何故か、私は、……実を言えば、雀の宿にともなわれたような思いがするのである。
かさねてと思う、日をかさねて一月にたらず、九月一日のあの大地震であった。