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しっぽうのはしら
鏡花短編集
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《鏡花短編集(しっぽうのはしら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,632 字 · 32 頁
「あれは、はあ、駅長様の許へ行くだかな。昨日も一尾上りました。その鱒は停車場前の小河屋で買ったでがすよ。」
「料理屋かね。」
「旅籠屋だ。新築でがしてな、まんずこの辺では彼店だね。まだ、旦那、昨日はその上に、はい鯉を一尾買入れたでなあ。」
「其処へ、つけておくれ、昼食に……」
――この旅籠屋は深切であった。
「鱒がありますね。」
と心得たもので、
「照焼にして下さい。それから酒は罎詰のがあったらもらいたい、なりたけいいのを。」
束髪に結った、丸ぽちゃなのが、
「はいはい。」
と柔順だっけ。
小用をたして帰ると、もの陰から、目を円くして、一大事そうに、
「あの、旦那様。」
「何だい。」
「照焼にせいという、お誂ですがなあ。」
「ああ。」
「川鱒は、塩をつけて焼いた方がおいしいで、そうしては不可ないですかな。」
「ああ、結構だよ。」
やがて、膳に、その塩焼と、別に誂えた玉子焼、青菜のひたし。椀がついて、蓋を取ると鯉汁である。ああ、昨日のだ。これはしかし、活きたのを料られると困ると思って、わざと註文はしなかったものである。
口を溢れそうに、なみなみと二合のお銚子。
いい心持の処へ、またお銚子が出た。