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いんえいらいさん

陰翳礼讃

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《陰翳礼讃(いんえいらいさん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 頁

青空文庫

何となれば、能舞台における暗さは即ち当時の住宅建築の暗さであり、また能衣裳の柄や色合は、多少実際より花やかであったとしても、大体において当時の貴族や大名の着ていたものと同じであったろうから。私は一とたびそのことに考え及ぶと、昔の日本人が、殊に戦国や桃山時代の豪華な服装をした武士などが、今日のわれ/\に比べてどんなに美しく見えたであろうかと想像して、たゞその思いに恍惚となるのである。まことに能は、われ/\同胞の男性の美を最高潮の形において示しているので、その昔戦場往来の古武士が、風雨に曝された、顴骨の飛び出た、真っ黒な赭顔にあゝ云う地色や光沢の素襖や大紋や裃を着けていた姿は、いかに凜々しくも厳かであっただろうか。けだし能を見て楽しむ人は、皆いくらかずつかくの如き連想に浸ることを楽しむのであって、舞台の上の色彩の世界がかつてはその通りに実在していたと思うところに、演技以外の懐古趣味がある。これに反して歌舞伎の舞台は何処までも虚偽の世界であって、われ/\の生地の美しさとは関係がない。男性美は云うまでもないが、女性美とても、昔の女が今のあの舞台で見るようなものであったろうとは考えられない。