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ざっきちょうより(いち)

雑記帳より(Ⅰ)

寺田 寅彦

線上閱讀寺田 寅彦《雑記帳より(Ⅰ)(ざっきちょうより(いち))》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,305 字 · 5 頁

青空文庫

。そうして、それに関するいろいろの空想を逞しくした顛末を随筆にかいたことがある。ところが最近のある晩TS君がやはり丸ビル附近でそれと全く同じような経験をした、と云って話したところによると、やはり同じような子供を背負っていたが、しかしその徒歩での行先は亀井戸ではなくて吉原の裏の方だと云ったそうである。TS君のその話を聞いて間もないある夜のこと、工業倶楽部の近くの辻でバスを待っているとどこからともなく子供を負ぶった中年男が闇の中からひょっくり現われて、浅草までの道を聞くのであった。前に逢った場合と同じように無帽で、同じような五、六歳くらいと思われる男の子を背負っているが、どうも男の顔形にははっきりした見覚えはないので、前に自分の逢ったのと同人であるかどうか、何しろ暗いのでよくは分からない。とにかくこうなるとせっかくの最初の空想も雲消霧散して残るものは世智辛い苦々しい現実である。それにしてもこの「商売」が一体どのくらいの収入になるものか、今度逢ったら思い切って一つ聞いてみてやろうと思っている。同じ「感傷」を売り付けるにしても小説家や映画製作者に比べてみると実に可哀相なみじめな商売である。