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おしゃく
雛妓
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《雛妓(おしゃく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 頁
日が陰って、そよ風が立って来た。隣の画室で逸作が昼寝から覚めた声が聞える。
「おい、一郎、起きろ。夕方になったぞ」
父の副室を居間にして、そこで昼寝していた一郎も起き上ったらしい。
二人は襖を開けて出て来て、雛妓を見て、好奇の眼を瞠った。雛妓は丁寧に挨拶した。
逸作が「いい人でも出来たので、その首尾を奥さんに頼みに来たのかい」なぞと揶揄っている間に、無遠慮に雛妓の身の周りを眺め歩いた一郎は、抛り出すように言った。
「けっ、こいつ、おかあさんを横に潰したような膨れた顔をしてやがら」
すると雛妓は、
「はい、はい、膨れた顔でもなんでもようございます。いまにお母さんにお願いして、坊っちゃんのお嫁さんにして頂くんですから」
この挨拶には流石に堅気の家の少年は一堪りもなく捻られ、少し顔を赭らめて、
「なんでい、こいつ――」
と言っただけで、あとはもじもじするだけになった。
雛妓は、それから長袖を帯の前に挟み、老婢に手伝って金盥の水や手拭を運んで来て、二階の架け出しの縁側で逸作と息子が顔を洗う間をまめまめしく世話を焼いた。それは再び商売女の雛妓に還ったように見えたけれども、わたくしは最早やかの女の心底を疑うようなことはしなかった。