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あめあがる

雨あがる

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《雨あがる(あめあがる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,794 字 · 43 頁

青空文庫

一

一

もういちど悲鳴のような声をあげて、それから女の喚きだすのが聞えた。

――またあの女だ。

三沢伊兵衛は寝ころんだまま、気づかわしそうにうす眼をあけて妻を見た。おたよは縫い物を続けていた。古袷を解いて張ったのを、単衣に直しているのである。茶色に煤けた障子からの明りで、痩せのめだつ頬や、尖った肩つきや、針を持つ手指などが、窶れた老女のようにいたいたしくみえる。だがきちんと結った豊かな髪と、鮮やかに赤い唇だけは、まだ娘のように若わかしい。子供を生まないためでもあろうが、結婚するまでの裕福な育ちが、七年間の苦しい生活を凌いで、そこにだけ辛うじて残っているようでもあった。

外は雨が降っていた。梅雨はあけた筈なのに、もう十五日も降り続けで、今日もあがるけしきはない。こぬか雨だから降る音は聞えないけれども、夜も昼も絶え間のない雨垂れには気がめいるばかりだった。

「泥棒がいるんだよ此処には、泥棒が」女のあけすけな喚き声は高くなった、「ひとの炊きかけの飯を盗みやがった、ちょっと洗い物をして来る間にさ、あたしゃちゃんと鍋に印を付けといたんだ」

伊兵衛はかたく眼をつむった。