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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《雨瀟瀟・雪解 他七篇(あめしょうしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,414 字 · 289 頁
それを避けようと思って何方かの軒下へ立寄ればいきなり屋根の上から積った雪が滑り落ちて来ないともわからぬので、兼太郎は手拭を頭の上に載せ、昨日歯を割った足駄を曳摺りながら表通へ出た。向側は一町ほども引続いた練塀に、目かくしの椎の老木が繁茂した富豪の空屋敷。此方はいろいろな小売店のつづいた中に兼太郎が知ってから後自動車屋が二軒も出来た。銭湯もこの間にある。蕎麦屋もある。仕出屋もある。待合もある。ごみごみしたそれらの町家の尽る処、備前橋の方へ出る通との四辻に遠く本願寺の高い土塀と消防の火見櫓が見えるが、しかし本堂の屋根は建込んだ町家の屋根に遮られてかえって目に這入らない。区役所の人夫が掻き寄せた雪を川へ捨てにと車に積んでいるのを、近処の犬が見て遠くから吠えている。太い電燈の柱の立っているあたりにはいつの間に誰がこしらえたのか大きな雪達磨が二つも出来ていた。自動車の運転手と鍛冶屋の職人が野球の身構で雪投げをしている。
兼太郎は狭い路地口から一足外へ踏み出すと、別にこれと見処もないこの通をばいつもながらいかにも明く広々した処のように感じるのであった。そして折々自分はどうしても路地に生れて路地に育った人間ではない、死ぬまでにいつか一度元のように表通に住んで見たいものだと思う事もあるのであった。