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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《雪の上の霜(ゆきのうえのしも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 頁

青空文庫

六

「やめて下さい」伊兵衛は叫んだ、「……乱暴はよして下さい、危ないですから」

しかし彼の動作は眼にもとまらず、そのやりかたは珍しく痛烈であった。

手刀というのであろうか、ぴしっぴしっと烈しい音がし、悲鳴や呻きが起こり、侍たちはたちまち(右から斬込んだ者は左へ、左から斬込んだ者は右へと)つんのめり、すっとんで、五人のうち四人は地べたや枯草の上に倒され、他の一人は小川の中へ頭から落ち込んでしまった。

「どうも失礼しました、どうも失礼」伊兵衛は岩野という青年の前へゆき、にこにこあいさつをしながら云った、「おけがはないでしょうね、そう痛くもなかったと思うんですが、さ、手をお貸ししますから立って下さい、どうもまことに」

相手を立たせ、ひょいとおじぎをして、彼は手を出した。

「……そこでもういちどお願いします、どうか馬子たちに駄賃を払ってやって下さい」

馬子たちは向うで、ばかにでもなったような顔で、ぽかんとこっちを眺めていた。

六

小室道場での生活はすばらしかった。

青岳は宝蔵院流から出て、自分の名を冠した一派を立て、「一字」という独特の技をもっていた。伊兵衛は中也派を学んだが、そのうえに薙刀の法を加えて、穂尖よりも石突きに重点をおくような、特殊な操法を会得していた。