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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

線上閱讀神西 清《雪の宿り(ゆきのやどり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 頁

青空文庫

さいわい五月の末ごろまでは何事もなく過ぎました。とは申せ安からぬ物の気配は日一日と濃くなるばかり。東西両陣の合戦の用意が日ごとに進んで参る有様が手にとるように窺われます。その中を、わたくしにとって只一つの心頼みは、あの松王丸様なのでございました。いやそうではございません。すでに御家督をおすべりになって、蔭凉軒にて御祝髪ののちの、見違えるような素円さまなのでございます。お歳ははや二十四、ああ世が世ならばと、御立派に御成人のお姿を見るたびに、わたくしは覚えず愚痴の涙も出るのでございました。……実は先刻から申しそびれておりましたが、この松王さまが(やはり呼び慣れたお名で呼ばせて頂きましょう――)、いつの間にやら鶴姫さまと、深いおん言交しの御仲であったのでございます。母親にたずねてみますれば色々その間のいきさつも分明いたしましょうが、そのような物好き心が何の役にたちましょう。ただ、武衛家の御家督に立たれました頃おい、太閤様にじきじきの御申入れがあったとやら無かったとやら、素より陪臣のお家柄であってみれば、そのような望みの叶えられよう道理もございません。