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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《青べか物語(あおべかものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 頁

青空文庫

冗談を云われたり、躯に触られたりしても怒らないばかりでなく、すすめられると酒でもビールでもかなり飲み、少し酔うといい声で唄もうたった。

或る日、葛西汽船の二十八号が発着所へ着いたとき、おさいは岸へいって機関室を覗きこみ、元井エンジを認めて声をかけた。

「エンジさん、暫くだね」とおさいは云った、「たまにはうちへも遊びに来せえま」

彼は微笑し、ちょっと片手をあげてみせたが、口はきかなかった。

次のとき、彼女は自分の子を抱いていて、洗い場の石段を二十八号船の側までおりてゆき、元井エンジを呼んで、これが布佐で生んだ子である、と揺りあげてみせた。

「名前ははるみって付けたの」と彼女は云った、「可愛いでしょ」

彼は微笑しながら頷いた。なんの意味も含まない微笑で、やはり口はきかなかった。

こういうことが幾たびかあった。おさいはそのたびに「遊びに来い」とさそった。彼は微笑をうかべて、頷いたり、手をあげてみせたりしたが、それは機械的で、少しも感情のこもらないものであった。そして或る夜、――元井エンジが晩めしを済ませ、燭光の弱い電燈の下へ将棋盤を据えて、例のとおり自分に話しかけながら駒を並べた。