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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《青べか物語(あおべかものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 頁

青空文庫

というビラに続いて、演説者の名を書いたビラがずらっと並んでいた。その中には応援弁士として、県や市の議員の名もみえたように思うが、慥かではないし、またここではその必要もない。というのが、演説は実際には誰一人としてやれなかったからだ。

定刻まえに、会場は殆んど満員になった。ぎっしり詰った聴衆のあいだを、いつも寄席の「浦粕亭」に出ている中売りの女が、巧みに「えーおせんにラムネ、南京豆にキャラメル」と売り歩き、それが大いに繁昌していた。子供たちは人の肩を踏んづけてとびまわり、殴られて泣きだし、人びとは煎餅を喰べ、ラムネ玉の音をさせながら饒舌りあい、はなれて坐った者同士が、かなきり声で呼びあったりしていた。気がついてみると、演壇の脇、つまり湯屋の番頭の出入りするところに、巡査が三人来て立っていた。三人とも帽子の顎紐をかけ、手には白い手袋をはめていた。それは東京などで政府反対の演説会があるとき、臨検の警官がみせる身拵えで、私はなにかあるなと直感した。けれども町の人たちはそのものものしさに気づかないようすで、ラムネ玉の音をさせ、煎餅をかじる音をさせ、高ごえで饒舌りあっていた。