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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《青べか物語(あおべかものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 頁

青空文庫

すると一人の老人が、すぐうしろに腰を掛けて、私などは眼にもはいらないといったような顔つきで、古風な莨入を腰から抜くところであった。私は支える足に気をくばりながら、また海のほうへ眼を戻した。

「ずっとめえに、ここへなにかぶっ建てようと思ったっけだが」と老人が大きな声で云った、百メートルも先にいる人に話しかけるような声であった、「なんかぶっ建ってくれべえと思ったっけだがねえよ」

私は黙っていた。私は老人しか見なかったが、それではもう一人伴れでもいるのか、と思ったのである。しかし答える声はなく、老人はやかましい音をさせて煙管をはたき、次のタバコを吸いつけた。煙管はつまっていて、喘息患者の喉のように、ぐずぐずとやにの鳴る音が聞えた。

「ずっとめえのこった、おつゆのおっかあがまだ綿屋へ嫁にいかねえころのこった」と老人は大きな声で云った、そしてやや暫く黙っていてから、また煙管をはたき、三服めを吸いつけて、喚きたてた、「なんにもおっ建たなかっただよ」

私はやはり黙っていた。

二度めには百万坪で会った。季節は春で、強い風が吹いていた。私は「二つ」の堀に沿った道を、沖の弁天社のほうへ歩いていた。