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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《顎十郎捕物帳(あごじゅうろうとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,061 字 · 22 頁
ひょろ松は苦笑して、
「さアさア、馬鹿なことを言っていないで、そろそろ出かけましょう。……近いと言っても田舎道、まごまごしていると、せっかくの女体に行きあわれねえ」
柏屋を出て、水上の長い土手づたい。
金井橋を渡ると、その取っつきに、土塀をめぐらしたゆったりとしたひと構え。
門を入ると、玄関に又右衛門が待ちかねていて、柴折戸から庭づたいにそっとふたりを離屋へ案内する。
桃の古木にかこまれた、八畳つづきの奥の部屋に屏風を引きまわして、お小夜が見るかげもないようすで寝床についている。
顔の肉がなくなって骨ばかり、唇だけが妙に前へ飛びだしている。人間の相でない、まるで畜類。
また、狂いまわったばかりのところと見え、長い黒髪をすさまじいばかりに畳の上に散らし、眼尻を釣りあげてジッと三人を睨めつけていたが、とつぜん、魂消えるような声で、
「あれえ、また来た。……もうもう、ゆるしてください、ゆるして、ください……助けてくれえ」
足で夜具を蹴りかえし、畳に両手の指の爪を立てて床の間のほうへ這いずってゆく。見るさえおどろおどろしいばかり。
ひょろ松と顎十郎、さすがに黯然となって、無言のまま眼を見あわせていたが、そうばかりはしていられないので、手早く部屋の内部をそこここと調べおわると、縁側の戸袋の薄くらがりの中へしゃがみこみ