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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《顎十郎捕物帳(あごじゅうろうとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,022 字 · 36 頁
顎十郎は、そろそろと松の木からおりて沼のへりを廻り、竹藪の中へ逃げこむと、またしても大胡坐をかき、
「……あなたまかせの春の風。……もうひとつの漢字がわかって、その上、読み方まで教わりゃあ世話はない。……すると、お沢婆さんの書いた三字の漢字というのは『五』と『大』と『鹿』だ。……鹿は鹿の子の『か』と読ませるつもりだそうだから、すると『五』は五月の『さ』。こりゃあ、わけはない。すると『大』はこの筆法で、大臣の『お』かな、それとも大人の『う』かな。……『さおか』。でははなしにならないから、するとやはり大人のほうで『さうか』。……さうか……、さうか……、草加!……ふ、ふ、なるほど!」
涎くり
湯島の古梅庵という料亭の奥座敷。
柱掛に紅梅が一と枝けてあって、その下で顎十郎が口の端から涎を垂らして、ぼんやりと眼を見ひらいている。
これと向きあって、紫檀の食卓に腰をかけ、ニヤニヤ笑っているのは、鐘ガ淵のれいのお八重。
高く組んだ膝の上へ肱をついて掌で顎を支え、ひどくひとを馬鹿にした顔つきで、
「ほほほ、ちょいと顎さん……。仙の字。……なにもかも承知のくせに、すッ恍けてあたしを嬲ろうとしたって、そううまくはゆきませんのさ。