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ふろをかうまで
風呂を買うまで
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《風呂を買うまで(ふろをかうまで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,387 字 · 5 頁
湯屋は大久保駅の近所にあって、わたしの家からは少し遠いので、真夏になってから困ることが出来た。日盛りに行っては往復がなにぶんにも暑い。ここらは勤人が多いので、夕方から夜にかけては湯屋がひどく混雑する。わたしの家に湯殿はあるが、据風呂がないので内湯を焚くわけに行かない。幸に井戸の水は良いので、七月からは湯殿で行水を使うことにした。大盥に湯をなみなみと湛えさせて、遠慮なしにざぶざぶ浴びてみたが、どうも思うように行かない。行水――これも一種の俳味を帯びているものには相違ないので、わたしは行水に因んだ古人の俳句をそれからそれへと繰出して、努めて俳味をよび起そうとした。わたしの家の畑には唐もろこしもある、小さい夕顔棚もある、虫の声もきこえる。月並ながらも行水というものに相当した季題の道具立は先ず一通り揃っているのであるが、どうも一向に俳味も俳趣も浮び出さない。
行水をつかって、唐もろこしの青い葉が夕風にほの白くみだれているのを見て、わたしは日露戦争の当時、満洲で野天風呂を浴びたことを思い出した。海城・遼陽その他の城内には支那人の湯屋があるが、城から遠い村落に湯屋というものはない。