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ばきんのしょうせつとそのとうじのじっしゃかい

馬琴の小説とその当時の実社会

幸田 露伴

線上閱讀幸田 露伴《馬琴の小説とその当時の実社会(ばきんのしょうせつとそのとうじのじっしゃかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,640 字 · 15 頁

青空文庫

。言い換えますれば馬琴が作中のこれらの第三類の人物は大抵その当時に存在して居るところの人物なのであります。たとえば磯九郎という男は、勇者の随伴をして牛の闘を見にまいりますと、ふと恐ろしい強い牛が暴れ出しまして、人々がこれを取り押えることが出来ぬという場合、牛に向って来られたので是非なく勇者たる小文吾がその牛を取り挫いで抑えつけます。そこで人々は恩を謝し徳をたたえて小文吾を饗応します。すると磯九郎は自分が大手柄でも仕たように威張り散らして、頭を振り立てて種々の事を饒舌り、終に酒に酔って管を巻き大気焔を吐き、挙句には小文吾が辞退して取らぬ謝礼の十貫文を独り合点で受け取って、いささか膂力のあるのを自慢に酔に乗じてその重いのを担ぎ出し、月夜に酔が醒め身が疲れて終に難にあうというのですが、いかにも下らない人間の下らなさ加減がさも有りそうに書けております。これは馬琴が人々の胸中から取り出し来った人物ではありません。けだし当時の実社会に生存して居たものを取り来ってその材料に使ったのであります。というものは、この磯九郎のような人間、――勿論すっかり同じであるというのではありませんが、殆どこの磯九郎のような人間は、常に当時の実社会と密接せんことを望みつつ著述に従事したところの式亭三馬の、その写実的の筆に酔客の馬鹿げた一痴態