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ばきんのしょうせつとそのとうじのじっしゃかい

馬琴の小説とその当時の実社会

幸田 露伴

線上閱讀幸田 露伴《馬琴の小説とその当時の実社会(ばきんのしょうせつとそのとうじのじっしゃかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,640 字 · 15 頁

青空文庫

『八犬伝』の中の左母二郎などという男は、凡庸人物というよりもやや奸悪の方の人物でありますが、まさに馬琴の同時代に沢山生存して居たところの人物でありまして、それらの一種の色男がり、器用がり、人の機嫌を取ることが上手で、そして腹の中は不親切で、正直質朴な人を侮蔑して、自分は変な一種の高慢を有して居る人物を、馬琴がその照魔鏡に照して写し出したのであります。何故と申しますまでもありません、馬琴の前後の小説、――いわゆる当時の実社会をそのまま描写することを主とした、小説ともいえぬほど低微なものでありますが、それらの小説は描写が実社会の急所にあたってること、即ちウガチということを主として居るものであります。そのウガチを主な目的として居るところの著作数種を瞥見しますれば、左母二郎のような人間がしばしば描かれて居るのを発見するに難くないのでありますから、左母二郎のような型の人物の当時に少なくなかった事はおのずから分明であります。ただ馬琴は左母二郎の軽薄※巧で宜しくない者であることを示して居るに反して、他の片々たる作者輩は左母二郎を、意気で野暮でなくって、物がわかった、芸のある、婦人に愛さるべき資格を有して居る、宜しいものとして描いて居るのです。