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まおうものがたり
魔王物語
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《魔王物語(まおうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,506 字 · 23 頁
八
「早まってはいかん、早まってはいかん」と、云ってあわただしく走り込んで来た者があった。平太郎は短刀の手を止めて顔をあげた。それは病気で引籠っていた権八であった。
「何故にそんなことをなされる」と、権八は其の手を掴んで叱るように云った。
平太郎は静に正太夫の切腹をしたことを話して、
「申しわけの切腹であるから、決して止めてくださるな」と、云って権八の手を揮り払おうとした。
「……然らば正太夫の死体はどこにある」と、権八は平太郎の手をしっかり掴んだままで左右を見た。
「貴殿の背後にある、私は朋友を殺した、生きておることはできん」
権八は首を曲げて背後を見た。其処には何も見えなかった。
「何も見えないではないか」
平太郎は夢から覚めたようになった。彼の眼には夜の明け離れた室の中が映った。短刀を落して室の中を見廻した。正太夫の死体も柱の下の折れた刀も見えなかった。彼は苦笑して権八を見た。
「すんでのことに、あぶないところであった」と、権八は呆れて眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)った。
八
七月の末の日となった。妖怪に悩まされはじめてから満一ヶ月目の夜であった。