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ぎょもん

魚紋

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《魚紋(ぎょもん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,582 字 · 30 頁

青空文庫

三

そ、そんな大それた野心を持って居るんじゃありません。ただ……』

『ただ? ……何だ』

『お可久さんに、一言、話をしたいと思って、あなた方が今夜、花屋を出る所からお後を慕って来たんです』

『何だと、俺たちを尾行て来たって。……はははは、呆れけえった男だ、おれとお可久と、こうして仲よく旅立つ姿を見ても、腹も立たずに、指を咥えて、後から見ていたのか』

『私は、一言、お可久さんに最後の事を云いたかったんです。それで、諦めるつもりだったんです』

『こいつにゃあ、刃物を出す気にもなれねえ。お可久、おれが川から金を揚げてくる間、何とか一言云ってやんねえ、生霊が取ッ憑くといけねえや』

『いやだよ。私は……』

『罪ほろぼしと思ってよ』

薊は、春作の体を、橋の欄へくくりつけて、そこへ、自分の帯を解き初めた。

脚絆わらじは元より、着物をすべて脱ぎ捨てる。そして、腹巻一つの真っ裸になると、魚のように、身を翻えして、川の中へ躍り込んだ。

三

大きな波紋の下に、薊のすがたは暫く沈んでいた。

天竜川育ちと、自分でも豪語していたが、彼の水の中の動作は鮮やかであった。

水深の底の底まで、月明りが届いていた。