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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 頁

青空文庫

「鷭の平には?」

「見張が立った様子です」

「よし!」と森啓之助、うなずきを与えた。そして三位卿をかえりみながら、

「もう大丈夫――天魔鬼神でもこの山から踏みだすことはなりませぬ」と笑みをみせた。

「脱走を企てたのは何者か」

「御存じの、俵一八郎でござります」

「ウム、あれか」

三位卿は、安治川屋敷の雪洞と、阿波守が手に持った、ほたる斬り信国の光を想い起こした。

「森様――」とまた、樹上から樹下へ、物見の山番が呼びかけた。

「おウ、なんじゃ」と、声に応じて振りあおぐ。

「見つけたらしゅうございます。俵一八郎を、八方から一ヵ所へ、ワラワラと人数が集まって行きました」

「そうか。手もなく捕えてしまったのであろう。では降りてもよろしい」と命令した。

で、啓之助は、すっかり不安を一掃したらしく、岩の上へ腰を下ろして、三位卿へ話を向けなおした。

「あなた様もご承知でございましょう。鳩使いの天満浪人、俵同心と申した奴で」

「知っている。安治川のお屋敷へ妹を棲みこませていた者じゃ」

「その妹の鈴も、この剣山に同獄しておりましたが、極寒のうちに、凍死してしまいました。それ以来、一八郎め、ほとんど、野獣のように荒れ狂って無謀な脱走をくわだてますので、特に、山番二人と牢番一名をつけておきましたが、またもやこんな騒ぎをしでかしました」