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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

線上閱讀小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 頁

青空文庫

といいます。

いつか全部に紐をつける事にしました。それからは本や新聞を見る時も、紐を指にかけて握っているのでした。睡っている時も手から離しません。朝目が覚めて、「どこかへ行った」といいます。顔を洗いに立つと、蒲団の上に転がっていました。

段々終りに近くなっては、一々品をいいますから、取りかえてあげます。見ないでも握り加減で分るのでした。やはり木魚とか種彫とか、握り工合のよいのを喜びました。「子犬」といわれて取ってあげるのは、草鞋に子犬が二つむつれている形でした。大きさも程よく、ほんとに可愛らしいのでした。

終ってからそれらの品々を皆集めて、柔い裂に包んで箱に入れ、仏の前に供えて置きました。納棺の時にと思いましたが、病理解剖にするのでしたから、いよいよ埋葬の時、一つ二つ手馴れたのを入れました。地下でも相変らず楽しんでいるかと思いまして。

跡は親しい近親の人に形見として分けました。小さい男の孫は、「おじい様のようでしょう」と、赤い紐を指にかけて握って見るのでした。残して置いた幾つかは、小さい箱に入れたまま、惜しいことに戦災で失いました。

忠婢

はつが始めて家へ来たのは、明治三十年頃でしたろうか。