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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

線上閱讀小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 頁

青空文庫

小切れのたとうの中に、黒地に一面に大小の紅葉を染めたのがありますのは、長女の五つの時に初めて袖の長い衣類を作ってやった、その時のです。小金井の家は戊辰の際に朝敵となった長岡藩の士族で、主人は貧しい家に兄弟が多く、貸費生で仕上げたのです。それに父は病身で早く亡くなったので、留学中の家族の生活費は郷里の商人から借り、帰朝後僅かな月給の中から、それをだんだんに償還したのでした。やっと大学教授の職に就いた時、寄って来るのは補助を頼む人ばかり、母を養い、弟妹の学資を出した跡は、質素な生活をするだけがやっとのことでした。ですから七五三のお祝など、思いも寄りませんかった。森の母が、「でも女の子だから」と、いろいろ手伝ってくれたのですが、著物は出来ても、帯がなかなかです。母は出入の呉服屋を団子坂へ呼んで、私に見せて下さいましたが、私はただその値段に驚くばかりでした。その日はきっと日曜日だったでしょう。兄が出て来られて、「作った人の骨折を思えば安いものだ。綺麗だねえ」といわれました。けれども私は、そんなのは勿体ないと、型ばかりのにしたのでした。その娘がもはや還暦なのです。