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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

線上閱讀小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 頁

青空文庫

国許から母と妹とが来たので狭くなったからです。東片町は畠の中の粗末な普請です。庭先に大工の普請場があって、終日物音が絶えません。新築がつぎつぎに出来るためでしょう。向い側には緒方正規氏が前から住んでいられましたが、そこはお広いようでした。その頃郵便局のあった横町から這入るので、左へ曲ると行止りになる袋小路でした。小金井はアイヌ研究のために北海道へ二カ月の旅行をして、この月六日に帰ったばかり、それで十日からは授業を始めますし、卒業試問もあるというのです。その頃はそんな時に試験があったのでした。その準備もせねばならず、北海道からは発掘した荷物が来るのですから、繁忙を極めていました。

その頃の東片町は、夜になると寂しいところでした。私の部屋のある四畳半は客間の続きですが、雨戸なしの硝子戸だけでした。いつか雨続きの頃、主人は会があって不在の晩、静かに本を読んでいる内に夜が更けました。ふと気が附くと、窓の前でペタッ、ペタッという音がします。何かしら、と首を傾けても分りません。暫くすると、また音がします。高いところから物の落ちる音ですが、それが柔かに響くのです。