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どんてん
21世紀の日本人へ 永井荷風
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《21世紀の日本人へ 永井荷風(どんてん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 24,356 字 · 51 頁
それも数えればもう七八年むかしである。
毎年東京の町に秋のおとずれるのは八月の七八日頃である。今年もいよいよ秋になったと知るが否や、わたくしは今日か明日かと、夜毎に※(「虫+車」、第3水準1-91-55)の初音を待つのが例である。しかしこの年頃の経験によると、※(「虫+車」、第3水準1-91-55)の声の人の耳に達するのは、夕日の梢に初めてオシイツクツクの声をきいてから、遅い時には十日十五日くらい待たねばならない。オシイツクツクも初の中はさほどに心細く、さほどにせわしなく鳴きしきりはしない。彼方の木の梢で一声短く鳴いたなり、黙ってしまうと、やがて此方の梢から様子でも窺うように、挨拶でもしあうように、別の蝉がゆるやかに鳴くのである。
この時分には秋になったといっても、夕日の烈しさは昨日となった夏にかわらず、日の短さも目にはたたない。凌霄花はますます赤く咲きみだれ、夾竹桃の蕾は後から後からと綻びては散って行く。百日紅は依然として盛りの最中である。そして夕風のぱったり凪ぐような晩には、暑さはかえって真夏よりも烈しく、夜ふけの空にばかり、やや目立って見え出す銀河の影を仰いでも、往々にして眠りがたい蒸暑に襲われることがある。