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どんてん

21世紀の日本人へ 永井荷風

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《21世紀の日本人へ 永井荷風(どんてん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 24,356 字 · 51 頁

青空文庫

朝夕の寒さに※(「虫+車」、第3水準1-91-55)もまた夜遊びに馴れた放蕩児の如く、身にしむ露時雨のつめたさに、家の内が恋しくなるのであろう。

何というわけもなく、いろいろの事が胸の底から浮んで来る時節である。冬ぢかい秋の日の、どんよりと曇ったまま、雨にもならず風もそよがず、尽きない黄昏のように沈静する昼過ほど、追憶と瞑想とに適した時はあるまい。日頃は忘れているボードレールやヴェルレーヌの詩篇が身を刺すようにはっきり思返されて来る。萎れかけた草の葉かげから聞える昼間の虫の声は、正しく「秋のヴィオロンのすすり泣する調」であろう。

枕に就いてからも眠られぬ夜はまたさらに、※(「虫+車」、第3水準1-91-55)の鳴く音を、恋人のささやきよりも懐しく思わなければなるまい。それは眠られぬ人に向って、いかほど啼いたからとて、身にあまる生命の切なさと悲しさとが消去るものではない。※(「虫+車」、第3水準1-91-55)は啼くために生れて来たその生命のかなしさを、ただわけも知らず歎いているのだと、知れざる言葉を以て、生命の苦悩と悲哀とを訴えるように思われるからだ。