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あすなろう

あすなろう

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《あすなろう》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 頁

青空文庫

音をたてて裂けた。

「そういうことか」と彼は舌打ちをした、「もう勤めあげたってわけだな」

政は月を見あげ、あくびをして、うしろ頸にとまった蚊を叩いた。

「いよいよとなると、ちっとばかりこころぼそくなるな」と政は独りごとを云った、「――生れてっから芝をはなれたことがねえんだからな、木更津か、……天気の日には芝浜からぼんやり見える、海の向うといってもほんの一と跨ぎだそうだが、――そこでくらすとなるとこいつ、やっぱりちっとこころぼそいような気持になるな」

政のまわりで、虫の音が急にやみ、あすなろうの樹のうしろから、誰か出て来た。

「ええ」と政はとびのいた、「ええ吃驚した、おどかすな、誰だ」

出て来た男は「しっ」と手を振り、藍色に染めた頬かぶりをとった。あまり明るくない月の光で、それが文次だということがわかった。

「お、あにい」政は仰天したように一歩さがった、「おめえどうして、こんなところへ」

「大きな声を出すなよ」と文次が云った、「おめえさっき、ここで徳銀の娘と逢うって云ったじゃあねえか」

「そりゃあ云うことは云ったが」

「疑わしけりゃあ来てみろとも云ったぜ、まあおちつけよ、まだ暇はたっぷりあるぜ」