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いのちのしょや
いのちの初夜
北条 民雄
線上閱讀北条 民雄《いのちの初夜(いのちのしょや)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,366 字 · 63 頁
「この上に脱げと言うのですか」
と思わず口まで出かかるのをようやく押えたが、激しく胸が波立って来た。もはやどん底に一歩を踏み込んでいる自分の姿を、尾田は明瞭に心に描いたのであった。この汚れた蓙の上で、全身虱だらけの乞食や、浮浪患者が幾人も着物を脱いだのであろうと考え出すと、この看護婦たちの眼にも、もう自分はそれらの行路病者と同一の姿で映っているに違いないと思われて来て、怒りと悲しみが一度に頭に上るのを感じた。逡巡したが、しかしもうどうしようもない、半ば自棄気味で覚悟を定めると、彼は裸になり、湯ぶねの蓋を取った。
「何か薬品でもはいっているのですか」
片手を湯の中に入れながら、さっきの消毒という言葉がひどく気がかりだったので訊いてみた。
「いいえ、ただのお湯ですわ」
良く響く、明るい声であったが、彼女らの眼は、さすがに気の毒そうに尾田を見ていた。尾田はしゃがんでまず手桶に一杯を汲んだが、薄白く濁った湯を見るとまた嫌悪が突き出て来そうなので、彼は眼を閉じ、息をつめて一気にどぼんと飛び込んだ。底の見えない洞穴へでも墜落する思いであった。すると、
「あのう、消毒室へ送る用意をさせて戴きますから――」