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いのちのしょや
いのちの初夜
北条 民雄
線上閱讀北条 民雄《いのちの初夜(いのちのしょや)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,366 字 · 63 頁
と尾田が言うと、
「そうでしょう」
と佐柄木は尾田の顔を注意深く眺め、
「でもあなたは、まだ癩に屈伏していられないでしょう。まだ大変お軽いのですし、実際に言って、癩に屈伏するのは容易じゃありませんからねえ。けれど一度は屈伏して、しっかりと癩者の眼を持たねばならないと思います。そうでなかったら、新しい勝負は始まりませんからね」
「真剣勝負ですね」
「そうですとも、果し合いのようなものですよ」
月夜のように蒼白く透明である。けれどどこにも月は出ていない、夜なのか昼なのかそれすら解らぬ。ただ蒼白く透明な原野である。その中を尾田は逃げた、逃げた。胸が弾んで呼吸が困難である。だがへたばっては殺される。必死で逃げねばならぬのだ。追手はぐんぐん迫って来る。迫って来る。心臓の響きが頭にまで伝わって来る、足がもつれる。幾度も転びそうになるのだ。追手の鯨波はもう間近まで寄せて来た。早くどこかへ隠れてしまおう。前を見てあっと棒立ちに竦んでしまう。柊の垣があるのだ。進退全く谷まった、喚声はもう耳もとで聞こえる。ふと見ると小さな小川が足もとにある、水のない堀割りだ、夢中で飛び込むと足がずるずると吸い込まれる。