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いのちのしょや
いのちの初夜
北条 民雄
線上閱讀北条 民雄《いのちの初夜(いのちのしょや)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,366 字 · 63 頁
心は脅えきっていて、布団の中に深く首を押し込んで眼を閉じたままでいると、火柱が眼先にちらついた。再び悪夢の中へ惹きずり込まれて行くような気がし出して眼を開いた。もう幾時ころであろう、病室内は依然として悪臭に満ち、空気はどろんと濁ったまま穴倉のように無気味な静けさであった。胸から股のあたりへかけて、汗がぬるぬるしてい、気色の悪いこと一とおりではなかったが、起き上がることができなかった。しばらく、彼は体をちぢめて蝦のようにじっとしていた。小便を催しているが、朝まで辛棒しようと思った。とどこからか歔欷きが聞こえて来るので、おやと耳を澄ませると、時に高まり、時に低まりして、袋の中からでも聞こえて来るような声で断続した。唸くようなせつなさで、締め殺されるような声であった。高まった時はすぐ枕もとで聞こえるようだったが、低まった時は隣室からでも聞こえるように遠のいた。尾田はそろそろ首をもち上げてみた。ちょっとの間はどこで泣いているのか判らなかったが、それは、彼の真向かいのベッドだった。頭からすっぽり布団を被って、それが幽かに揺れていた。泣き声を他人に聞かれまいとして、なお激しくしゃくり上げて来るらしかった。