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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《おごそかな渇き(おごそかなかわき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 頁

青空文庫

「それでお父さんはブラジルへゆく気になったんだね」

「どうかしら」少女はつんとした口ぶりで云った、「あたしはそうは思わないわ」

「ほかにわけでもあるの」

りつ子は暫く黙っていてから、あの女のせいよ、となにかを投げつけるように云った。隆二は、どうして、ときこうとしてやめた。少女十四歳、むずかしいとしごろだ。父親が再婚する、というだけで、相手の女性に本能的な嫉妬を感じているだけだ。ブラジルへゆこうと東京へゆこうと、その感情に変りはないだろう、と思ったからであった。

坂をおりきった林の中に農家があり、老人夫婦が白菜畑へ鍬を入れていた。老人は垢だらけの疎な茫髪に、継ぎはぎだらけの布子に股引をはき、老婆はくの字なりに腰が曲っていた。

「だめだね」老人は隆二の頼みを聞くと、訛りのある言葉で舌ったるく答えた、「――旅の者にはひどいめに幾たびもあってるだでな、この辺じゃあ旅の者を泊めるうちはねえだよ」

「そのな」と老婆が云った、「ここから少しさがると藁小屋があるだよ、へたな蒲団よりよっぽどあったけえもんだ、少し藁臭えけんどな」

老人はふきげんに、よけいなことをいうな、とでも云いたげにそっぽを向いていた。