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おじさんのはなし

おじさんの話

小山 清

線上閱讀小山 清《おじさんの話(おじさんのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 頁

青空文庫

若し誰かから愛想を尽かされていい人間がいるとしたなら、それは私のことだろう。

話をきくと、その後おじさんの商売の方は下火になる一方で、食券も煙草も殆ど需要がなくなったようであった。それでも食券の方はまだいくらか利用する人もあるようだったが、煙草の方はとうに自由販売になった現在、いまさらしけモクを喫う人はいないに違いなかった。蠣殻町の方も、たまにしか行かないようだった。日傭労務者の登録を受けるには、おじさんは少し年を取り過ぎていた。

「養老院へ行けなんて云う人もいるんだが、気が進まないんだよ。」とおじさんは云った。「もう少し前だったら、日傭にもらくになれたんだが、その時分はこっちの商売が繁昌したもんだから、つい登録する気にもならなかったんだよ。それにいまいるところも退かなきゃならないんだよ。いま、おかみさんが大きなおなかをしていてね、子供が生れるまでにほかに部屋を見つけてくれって云われているんだ。気の毒なんだよ。随分長い間世話になったよ。おれが父親のような気がするって云うんだ。」おじさんは目に見えて困窮していた。私はと云えば、私はまた人から借金して暮していて、いまだに陽の目を見ない小説を書いている身の上であった。