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おせん
おせん
邦枝 完二
線上閱讀邦枝 完二《おせん》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 74,074 字 · 148 頁
「どうかおしかえ」
「いいえ」
「でもお前、そんなに息せき切ってさ」
「どうもしやァしませんけれど、いまそこで、筆屋さんの黒がじゃれたもんだから。……」
「ほほほほ。黒が尾を振ってじゃれるのは、お前を慕っているからだよ。あたしゃまた、悪いいたずらでもされたかと思って、びっくりしたじゃァないか。何も食いつくような黒じゃなし、逃げてなんぞ来ないでも、大丈夫金の脇差だわな。――こっちへおいで。頭を撫で付けてあげようから。……」
「おや、髪がそんなに。――」
母の方へは行かずに、四畳半のおのが居間へ這入ったおせんは、直ぐさま鏡の蓋を外して、薄暮の中にじっとそのまま見入ったが、二筋三筋襟に乱れた鬢の毛を、手早く掻き揚げてしまうと、今度はあらためて、あたりをぐるりと見廻した。
「お母さん」
「あいよ」
「あたしの留守に、ここに誰か這入りゃしなかったかしら」
「おやまァ滅相な。そこへは鼠一匹も滅多に入るこっちゃァないよ。――何んぞ変わったことでもおありかえ」
「さァ、ちっとばかり。……」
「どれ、何がの。――」
障子の隙間から、顔を半分窺かせた母親を、おせんはあわてて遮った。
「気にする程でもござんせぬ。