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おせん
おせん
邦枝 完二
線上閱讀邦枝 完二《おせん》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 74,074 字 · 148 頁
突然平手で臑をたたくと、くすぐったそうにふふふと笑った。
「重さん、お前まったく変り者だの」
「なんでよ」
「考えても見ねえ。これが金の棒を削った粉とでもいうンなら、拾いがいもあろうけれど、高が女の爪だぜ。一貫目拾ったところで、疽の薬になるくれえが、関の山だろうじゃねえか。よく師匠も、春重は変り者だといってなすったが、まさかこれ程たァ思わなかった」
「おいおい松つぁん、はっきりしなよ。おいらが変り者じゃァねえ。世間の奴らが変ってるんだ。それが証拠にゃ。願にかけておせんの茶屋へ通う客は山程あっても、爪を切るおせんのかたちを、一度だって見た男は、おそらく一人もなかろうじゃねえか。――そこから生れたこの爪だ」
一つずつ数えたら、爪の数は、百個近くもあるであろう。春重は、もう一度糠袋を握りしめて、薄気味悪くにやりと笑った。
朝
一
ちち、ちち、ちちち。
行燈はともしたままになっていたが、外は既に明けそめたのであろう。今まで流し元で頻りに鳴いていた虫の音が、絶えがちに細ったのは、雨戸から差す陽の光りに、おのずと怯えてしまったに相違ない。
が、虫の音の細ったことも、外が白々と明けそめて、路地の溝板を踏む人の足音が聞えはじめたことも、何もかも知らずに、ただ独り、破れ畳の上に据えた寺子屋机の前に頑張ったまま、手許の火鉢