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おせいとうじょう
お勢登場
江戸川 乱歩
線上閱讀江戸川 乱歩《お勢登場(おせいとうじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,784 字 · 24 頁
数時間前、不義の外出から帰って、玄関にさしかかった時、あの様に胸騒がせた彼女とは(その時も已に十分悪女であったに相違ないのだが)我ながら別人の観があった。これを見ると、彼女の身内には、生れながらに、世に恐るべき悪魔が巣喰っていて、今その正体を現し始めたものであろうか。これは、後程彼女が出逢ったある危機に於ける、想像を絶した冷静さに徴しても、外に判断の下し方はない様に見えるのだ。
やがて検死の手続きは、別段の故障なく終り、死体は親族の者の手によって、長持の中から他の場所へ移された。そしてその時、少しばかり余裕を取返した彼等は、始めて長持の蓋の裏の掻き傷に注意を向けることが出来たのである。
若し、何の事情も知らず、格太郎の惨死体を目撃せぬ人が見たとしても、その掻き傷は異様に物凄いものに相違なかった。そこには死人の恐るべき妄執が、如何なる名画も及ばぬ鮮かさを以て、刻まれているのだ。何人も一目見て顔をそむけ、二度とそこへ目をやろうとはしない程であった。
その中で、掻き傷の画面から、ある驚くべきものを発見したのは、当のおせいと格二郎の二人丈であった。彼等は死骸と一緒に別間に去った人々のあとに残って、長持の両端から、蓋の裏に現れた影の様なものに異様な凝視をつづけていた。