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しじみがし

しじみ河岸

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《しじみ河岸(しじみがし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 頁

青空文庫

小屋を出た彼は、そのまま蜆河岸へいった。いっしょに直次郎がついて来た。直次郎は例によってしきりに話しかけるが、彼は黙って、兇行のあった空き地へ入っていった。

伝次たちがこの菓子を取ろうとするんだ、と直次郎がまわらない舌でいった。いつも取ろうとするんだ、「わからんな」が伝次たちには買ってやらないから、いつもおれのばかり取ろうとするんだ、と云った。

「ひどいもんだ」と律之助は呟いた、「――ひどいもんだな、じいさん」

彼は枯れかけた雑草を眺めまわした。するとふいに、彼の頭の中でなにかがはじけた。彼は直次郎のほうへ振返って、その手に持っている菓子を見た。それは(いつかのと同じ)鹿子餅であった。

――家には玩具なんぞもあった。

雨の日に訪ねたとき、直次郎はやはり菓子を喰べていた。玩具を出して来て、いっしょに遊ぼうとせがんだりした。

――玩具は新しかった。

まだ新しかったようだ、と律之助は思った。どっちも不似合いだ、鹿子餅も玩具も。稼ぎ手のお絹は七十余日まえからいない、たぶん相長屋の者たちが、協同で二人をやしなっているのだろう、たぶんそうだろう。

「そうとすればなおさら、鹿子餅や玩具はおかしい」