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そのきどをとおって
その木戸を通って
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《その木戸を通って(そのきどをとおって)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 頁
「だめだ、そこが向うの覘いなんだ」と彼は首を振った、「そんなことをすれば田原に疑われて、加島さんとの縁組がこわれてしまう、いいからおれの云うとおりにしろ」
吉塚は、「たのもしからぬお人だ」とでも云いたげに正四郎を見、それから、蓑も笠も揃えてあると云った。
それからまもなく、正四郎は蓑を着、筍笠をかぶり、尻端折のから脛に草鞋ばきで、家から一丁ほどはなれた、道の辻に立っていた。三月下旬だから寒くはない。脇差だけ一本、蓑から出ないように鐺下りに差し、横眼で自分の家のほうを見張っていると、やがて門の外へ娘が出て来た。
「いい雨だ」と彼は呟いた、「この降りのなかでは芝居もそう長くは続かないだろう、さあ始めてくれ」
吉塚夫妻の世話だろう、娘は雨合羽を着、脚絆に草鞋ばきで、背中へ斜めに小さな包を結びつけ、唐傘をさしていた。門から出たところで、ちょっと左右を眺め、すぐにこっちへ歩いて来た。正四郎は辻へはいってやりすごし、そうして、十間ばかりあいだをおいてあとを跟けた。
娘は大手筋を左へ曲り、そのまま城下町をぬけて、畦道を本街道のほうへ歩いていった。いそぐようすもなく、立停りもしなかった。