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あじさい

たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集

佐藤 春夫

線上閱讀佐藤 春夫《たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集(あじさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 頁

青空文庫

そのころわたくしの家ではひとり息子の結婚談がはじまっていた。

わたくしの寝室は四畳半の茶の間につづいて同じく四畳半の板の間に夫婦の単独ベッドを間を二尺ほどあけて平行にならべている。わたくしのベッドは裾の方を二尺開けて通路とし、家内のベッドは頭の方を二尺あけて通路とし、ここからは便所に通う廊下に出るのである。茶の間と寝室との間はみどり色のやや厚いカーテンを垂れて仕切っている。寝室だからもとより他人の自由に出入するような間取の場所ではない。

ところが息子の縁談がはじまったばかりの秋の一夜、わたくしのベッドの裾の方にあるカーテンの入口のところの造りつけの洋服箪笥のほの白い扉を背景にカーテンをくぐり抜けて部屋に進み入ろうとする姿でためらうかのように佇んでいる人影がぼんやりと見えるのであった。わたくしは恰も就眠直前で、精神は少しく朦朧としていたかも知れない。それにしても決して夢でもうつつでもない。人かげはよく見ると女のようであるが、今ごろ呼びもしない女中がこっそりと来るはずもない。人影のように見えるものは枕もとのほの暗い電燈とカーテンのしわとの産み出した影ででもあろうとじっと見据えて、やはり人影は正しく女に相違ないとだけは確めて、解せないことには思ったが、別に深く怪しみもせず、わが眼のせいと思いつつも、もう一度