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きつねつき

ちくま日本文学012 中島敦

中島 敦

線上閱讀中島 敦《ちくま日本文学012 中島敦(きつねつき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,136 字 · 19 頁

青空文庫

初めは確かに、弟の死を悲しみ、その首や手の行方を憤ろしく思い画いている中に、つい、妙なことを口走ってしまったのだ。これは彼の作為でないと言える。しかし、これが元来空想的な傾向を有つシャクに、自己の想像をもって自分以外のものに乗り移ることの面白さを教えた。次第に聴衆が増し、彼等の表情が、自分の物語の一弛一張につれて、あるいは安堵の・あるいは恐怖の・偽ならぬ色を浮べるのを見るにつけ、この面白さは抑えきれぬものとなった。空想物語の構成は日を逐うて巧みになる。想像による情景描写はますます生彩を加えて来る。自分でも意外な位、色々な場面が鮮かにかつ微細に、想像の中に浮び上って来るのである。彼は驚きながら、やはりこれは何かある憑きものが自分に憑いているのだと思わない訳に行かない。但し、こうして次から次へと故知らず生み出されて来る言葉共を後々までも伝えるべき文字という道具があってもいいはずだということに、彼はいまだ思い到らない。今、自分の演じている役割が、後世どんな名前で呼ばれるかということも、もちろん知るはずがない。

シャクの物語がどうやら彼の作為らしいと思われ出してからも、聴衆は決して減らなかった。