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ひとごろし

ひとごろし

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《ひとごろし》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 頁

青空文庫

六兵衛は逆上した。全身の血が頭へのぼって、殆んど失神しそうになった。

「ひとごろし」六兵衛はわれ知らず、かなきり声で悲鳴をあげた、「誰か来て下さい、ひとごろしです、ひとごろし」

そして夢中で走りだし、走りながら同じことを叫び続けた。どのくらい走ったろうか、息が苦しくなり、足もふらふらと力が抜けてきたので、もう大丈夫だろうと振り返ってみた。白く乾いた道がまっすぐに延びてい、右手に青く海か湖の水面が見えた。道の左右は稲田で、あまり広くない街道の両側には松並木が続き、よく見ると、道の上には往来する旅人や、馬を曳いた百姓などが、みんな立停って、吃驚したようにこっちを見ていた。――十町ほど先で道が曲っているので、おそらくまだそっちにいるのだろう、仁藤昂軒の姿は見あたらなかった。

「逃げるんだ」と彼は自分に云いきかせた、「いまのうちに逃げるんだ、早く」

六兵衛は激しく喘ぎながら、いそぎ足にあるいてゆき、やがて右手に、松林のある丘をみつけると、慌ててその丘へ登り、松林の中へはいっていった。六兵衛は笠をぬぎ、旅嚢を取って投げると、林の下草の上へぶっ倒れた。

「危なかった」